最近、Facebook等で親しくなった方から、「ラリーのサービスってどんなことするの?」という質問をいただくことがあります。
説明しましょう。長くなります。
■いい時
・空気のおいしい高原に着き、雄大な景色の中でテントを広げる。とりあえずコーヒーを淹れたり、運転しない人は早速Beerをいただいたり…。
・仲間のエントラント(出場選手)のマシンは事前に十分な準備整備がされていて、出走前は何もやることなし。
・今日の作戦や走りのアドバイスを授け、スタート時刻になったらみんなを送り出す。
・バーベキューコンロに火を入れ、食事を作り、みんなでワイワイ楽しく過ごす時間。Beerももう一本…。
・途中、エントラントから「無事です」「順調!」などの電話連絡が来て安心する。ここまでの成績も悪くないようだ。
・サービス時刻が近づくと、交換するタイヤや部品の準備を始め、作業分担を打合せ。ここは真剣に。
・ゼッケン1から順に競技車がサービスパークに戻ってくる。われわれのエントラントにトラブルはなく、ルーティン作業のみで送り出す。現在の成績は全車入賞圏内!期待ができる。
・次のサービス時間まで待機。緑の中、少しウトウトしたりしながら待つ。都会での日常から離れ、とても気持ちがいい。
・ラリーの規模により、上記を繰り返す。今回のような地区戦/県戦だと1〜2回。全日本は宿泊しながら2日間で4回ほど。国際イベントでは3日間も。
・やがてゴール。エントラントたちが笑顔で帰ってくる。成績は優勝含め全車入賞!
・みんなに「ありがとう、心強いサービス隊のおかげで安心してアクセルを踏めた」「今日の優勝はサービス隊のおかげ」と、照れるようなことを言ってもらう。やってて良かったと思う瞬間。
・マシンは多少ぶつかったり壊れたりはあるものの、問題なく自走して帰れるようだ。
・ゴール後は地元のおいしい食事をいただき温泉につかり、ゆっくりと今日一日の疲れを落とす。これも楽しみの一つ。
・表彰式の賞品のいくつかを感謝のしるしにもらい、帰途につく。疲れはしたが、充実した心地よい疲れだ。
・帰りには土地土地の魅力的なお土産を買って帰る。帰宅すると家族が笑顔で出迎えてくれ、お土産も喜ばれた。よし、また行こう。
こんな感じです。
はい。ここまでの空気でお分かりの通り、こんなことはほとんどありません。
■悪い時
・金曜日の深夜、仕事を終えそのまま寝ずに高速に乗り、朝まで徹夜で走り続け遠い遠いラリー会場へ向かう。
・着くと雨。おまけに強風。びしょ濡れになりながらテントを張る。空は真っ暗で景色など一切見えず。
・あるいは猛暑。強烈な日差し。雨だろうと晴れだろうと、どのみちびしょ濡れになる。おまけに虫、蚊、蜂にまとわり付かれる。
・出走前、エントラントのマシンにトラブル発生。びしょ濡れ、ドロドロのマシンの下にもぐり目や口に泥が落ちる。場合によっては電話をかけまくり交換部品の手配をする。もっと場合によっては一度東京に戻って部品を取ってくることも…。
・なんとか出走前リタイヤは免れ、スタートを送り出す。
・ひと息つきたいがそんな余裕はなく、時折飛ばされそうになるテントを何度も固定し直す。テントからは雨漏りも…。
・標高が高いためガスコンロがなかなか付かない。服も靴もびっしょり濡れ、とても気持ちが悪い。一睡もしていないため少しは横になりたいがそんなスペースはない。
・エントラントから電話が! コースアウト、クラッシュしマシンが大破、自走できないとの報告。引き上げと積載車の手配に追われる。
・またエントラントから電話が! クラッシュ多発の影響でタイムスケジュールが遅れ、かなり待たされるようだ。当然帰りも遅くなることになる。
・散々待たされ、やっとサービスパークにエントラントが戻ってくる。みんなトラブルを抱えたりくだらないクラッシュをしており過酷な重整備を要求される。
・成績は振るわず、エントラントの表情はみんな冴えない。
・せっかく用意した食事も、作業のためほとんど手を付けられず。なんとか時間内にサービスパークから送り出す。
・ラリーの規模とエントラントのアタマの悪さ加減で、上記を繰り返す。リタイヤ車は続々増える。サービスの仕事も続々増える。
・自走できないリタイヤ車が増えたせいで積載車が足りない。そのため1台積んで東京に一旦戻り、またぶっ通しで走って戻ってくる。
・やがてゴール。ゴール会場はたいていサービスパークと離れているために、撤収する際にエントラントの荷物を運んであげないとならない。中にはドロドロのタイヤやスペアパーツもあり、かなりの重量物もある。作業ツナギもトラックも汚れるし腰にくる…。
・ゴールしたエントラントの成績は振るわず、「ありがとうございました」の言葉にも疲れは取れない。
・ロクに風呂にも入れず、食事も仮眠も取れないまま帰途につく。居眠り運転をギリギリで堪え交替で運転するが、高速は大渋滞。
・帰りは深夜になり、荷物を降ろしてやっと解散。日付はすでに月曜日…。
・家族は寝ておりそっと帰宅。お土産は買い忘れた。ラリーをやってて家族に感謝されることなんて、何一つない。
・数日ぶりにシャワーを浴び、ふと今回のラリーのタイム表を見ようとパソコンを開いたら仕事のメールが大量に入っている。過酷な非日常から過酷な日常に戻り、人生がどんどん消耗されていく…。
さて、ここまでが前置きです。ここからは今週の報告ですが、ここまでの空気の通り、です…。
今回のサービス対象エントラントは以下。
■東日本ラリー選手権
BC-2クラス 川崎/本橋組 DC2インテグラ
BC-2クラス 萩原/萠抜組 AE111トレノ
0カー 石崎/三谷組 GDBインプレッサ
■長野県ラリーシリーズ
Cクラス 津田/村松組 CP9Aランサー
川崎組は前戦FRCで優勝しており、目下ポイントリーダー。念願のシリーズチャンピオンに向け実力も経験もチャンスも整ってきています。今回の名物コース、超高速ロングSS「Karasawa」は川崎選手の得意とする道。十分に期待です。
萩原選手は前戦、悪路で有名なMSCCをノートラブルで走りきり、きっと経験値を増していることでしょう。若いので伸びしろもまだまだ十分。今回はコドライバーに私の相棒、萠抜選手を起用しており十分にドライバーの長所を引き出してもらえる体制です。
そして石崎組は今回は競技車の先頭を走り、コース状況の確認をしたり危険箇所の判断を行う「0(ゼロ)カー」として出走します。実績、経験十分なドライバーにしかオファーが来ない名誉ある役割ですが、選手ではないので別に誰よりも速く走る必要はありません。
あろうことか、ラリーはこの0カーのリタイヤから始まりました。それもSS1・・・。
SS1、舗装の「Yokoseki」の第1コーナーは有名な「魔のコーナー」。0カーは数10mしか役目を果たさず、コースアウトし右フロントを大破しストップ。早速積載車で迎えに行くことに…。そのコーナーにはそのあともコースアウトや転倒車が続々と。
そしてダートのSS4「Nishinosawa」、それまで好調だった萩原組がコースアウトし転落。Sweeperに引っ張り上げてもらったものの駆動系が破壊されており自走できずリタイヤ。2週間前のMSCCのダメージが車に残っていたと思われます。
川崎組と津田組は順調にサービスに戻ってきました。川崎組は2位に10秒程度差を付けてトップを快走中の模様。サービス中に突然の豪雨になりサービス隊はびしょ濡れになりましたが、特に大きなトラブルもなくサービスアウト。選手達は山田シェフのおいしい食事をいただき元気一杯です。
その後コースサイドに放置されていた萠抜選手を迎えに出ました。その名も「雨境峠」を越えると快晴。こういう日の午後はたいてい濃霧になります。
次の最終サービスも順調。Section3は舗装の「Karasawa」のみ。舗装用タイヤに履き替え、超高速コースに挑みます。川崎組はリードを20秒ほどに拡げており、このまま若干ペースダウンをしても優勝が濃厚です。津田組も2位!
「序盤はいろいろあったけど、あとは嬉しい報告を聞くだけだねー」などと話しながらテントや道具、工具を撤収。われわれも作業ツナギから着替え、帰る準備を整えて休憩。
ほどなく電話が鳴る。川崎選手からだ。
「カラサワで10mほど落ちました。」
マシンの引き揚げは無理の模様。とりあえず人間だけ回収するためにコースへ向かいます。
現場はこの通り。
キレイにガードレールの切れ目から上手いこと落ちています。
本人曰く、
「2位の依田選手には30秒近い差を付けていた。」
「ペースを落とそうと思っていたが、さっきまで濃かった霧が晴れたので気持ちよく走ってしまった。」
「『右6左3』を、『右6左6』と聞き間違えた。」
「ゴールまではあと3kmくらいだった。」
「ビデオ撮れているかな?楽しみにしていて下さい。」
ええ、楽しみにしますとも…。
早水隊長、山田シェフ、江口くん、お疲れさまでした。またBigOnの長津さん、ありがとうございました。
長津さんは最後の顛末を知らないまま帰ったんですよね…。
で、川崎号は深夜に無事引き上げることができ、自走で帰ることができたようです。
次戦は「ツールド東北」、青森遠征です。逆境を乗り越えチャンピオンになれるか、ただのクルクルパーで終わるか、ご期待ください…。
posted by Kano